合成の誤謬
合成の誤謬とは「個々にとっては良い行動でも、全員が同じことをすると悪い結果を生む」ということを意味する。バブル崩壊後、長引く不況や国際競争の激化に対応し、企業は非正規雇用の比率を高めて人件費を削減してきた。その結果、家計所得が減って、消費が冷え込み、経済を停滞させ、企業自身の首を絞めてきた。「コスト削減したらモノが売れなくなったという合成の誤謬」という事だ。
今、創造的破壊という概念が語られるようになっている。米国の成長を支えてきたのは、GAFAと呼ばれるデジタル技術を駆使した企業群であるが、これらの企業の特徴は旧来のビジネスや社会慣習を破壊して、新たなビジネスを発展させてきたところにある。アメリカのアマゾン、グーグル、フエイスブックなど、世界をけん引するビックテックが、次々と創業した。
技術の大きな変化も、既存の社会慣習や経済活動を破壊する。GAFAが引き起こした技術革新も、既存ビジネスモデルの多くを破壊した。それは経済にとって損失のようにも見えるが、創造的破壊の本質は、古い仕組みを捨て去るところに、新たな成長の道が開かれるという事だ。そして、新たに生み出された価値は旧来のものよりはるかに大きいのである。
賃金を上げようという風潮が、やっと出てきて今年は実現した。確かに賃金低下は、税や社会保険料収入の伸び悩みを招き、結婚や子育てを困難にして、少子化を加速させてきた。社会基盤を揺るがしているのもこの問題だ。賃金引き上げによる「合成の誤謬からの脱却」が日本の目下の急務である。
ある企業では、正社員の比率を高めて従業員の意欲を引き出し、業界トップレベルの経常利益を実現している。いかに「人を大切にする会社」こそが着実に業績を伸ばしている証拠である。人を単なるコストとみなし、使い捨てにしてはばからない風潮は、人と人のつながりや助けあいと言った社会保障を支える理念を、失わせてきたと思えてならない。
アメリカが何だかんだと言われながらも依然として活力があるのは、大統領が変われば省庁の、日本で言えば局長クラス以上にあたる人間が一応全員辞めなければならない。高級官僚人事が抜本的に刷新され続けるのである。能力をフルに生かして仕事をしなければ自らの地位が危うくなる。こうゆう危機感のある社会だから、アメリカは強いのである。現在に安住していれば、平和や気楽さは得られるかもしれないが、決して巨大な富は得られない。国際競争にも勝てない。今の位置に安住して気楽さを追求する組織は決して強くはならないのである。企業ばかりではなく、行政組織も他人事ではない。土浦市を大きく伸ばす努力を、片時も失ってはならないのである。