新入社員
先日の新聞のコラムを読んで、自分のサラリーマン時代のスタートの時をほろ苦く思い出した。 50年と云う時を経て、今もなお同じようなことがあるものだと感心もした。 自分も配属されたその夜、上司がご馳走してくれた。 大いに食え、飲め、と云うからさんざん飲んだが、途中でどんぶりものを頼んだら「バカ野郎」と怒られ、「飯は自分の銭で食うもんだ」と教えられた。 新聞のコラムにそう書いてあるが、全く同じようなことがあって、その時の事を思いだしたのである。
新入社員の皆さんは、初めて実社会に出てまだ何も実感していないだろうが、今は非常に大変な時代になっていると思う。 学生時代は安全な高みから、物を見て感想を言っていればよかった。 しかしながら、これからはビジネス社会の一員として、汗と埃にまみれて進むべき方向を模索し、行動しなければならない。
ビジネスにおける若さの効用を語った古典となった名言に、明治時代の住友家総領事、伊庭貞剛の「少壮と老成」と題する一文がある。
「事業の進歩発展に最も害するものは、青年の過失ではなくて、老人の跋扈である」との有名なくだりに続いて、「進取開拓のことは、どうしても青年をして、これにあたらしめねばならぬ」。
日本の企業は、今、既成の産業秩序の枠を超えて、矢継ぎ早に新しい事業に打って出、国際企業として世界に通じる企業に生まれ変わらねばならない。 伊庭貞剛は「頭ばかり先へ出ようとすると足元がうく」と注意する。 まずは地道に基本を身につけることから始めなければなるまい。 先輩のコピーとならないよう、確かな目をもつことが大切である。 ビジネス社会が最も望んでいるのは、具現の実行者なのである。 「若い時の苦労は、買ってでもせよ」 「艱難汝を玉にす」。 昔からの格言は、現代にも十分通用するのである。 日本の将来は新入社員達の双肩にかかっていると思う。
先日、門司港を旅行の途中に寄った。 旧住友館に伊庭貞剛の像がある。 その眼の先は遠く海外を見ていた。 まるで現在の日本のいく末を案じているように見える。