オードリー・ヘプバーン
先日、たまたま深夜放送で 「ローマの休日」 のビデオを見た。 最初に見たのが高校時代であったと思うから、50年以上も前のことになる。 そのころはローマなど行ったことがなかったから、夢のような思いで感激して見ていたものだが、ローマに旅行することが普通の世の中になった今でも、やっぱり夢を見ているような気がした。
各国を公式訪問中のヘプバーン扮する王女が、ローマの大使館を抜け出し、夜の町で貧乏な通信記者とめぐりあう。 何しろ下界のことはまるでご存じない王女様である。
「ユー・メイ・シット・ダウン」とか 「自分で着物を脱ぐのは初めて」などというセリフに、目を白黒させるグレゴリー・ペック演じる通信記者との組み合わせも面白く、ヘプパーンはまさに妖精の美しさでチャーミングな王女を演じた。
アイスクリーム・コーンを売る市場、長い髪を切った美容院、川べりの夜のダンス場などなど・・・名匠ワイラーが演出した名場面が目に浮かんでくる。 ほろ苦いペーソス漂う幕切れも鋭く、いまの雅子さん・皇太子妃問題とどこか重なる気がしないでもない。 若き日のスクリーンでは世界の映画フアンに夢とときめきを与え、晩年のアフリカでは飢えた子らにパンと優しさを与えて、ヘプパーンは世を去った。 「人生は、美しい人は若くして死ぬべきだし、そうでない人は出来るだけ永生きすべきであろう」と言ったのは、三島由紀夫である。 「ところが95パーセントまでの人間はその役割を間違える」。 三島流ではないが、その役割をまちがえなかった5パーセントの代表が、ヘプパーンであろうと思う。