ある上司の呟きから

私が会社勤めをしていたころの上司で、有能な研究者であると同時に人生哲学にも秀でた先輩がいた。理系であるにもかかわらず、文学的センスの抜群な人で、いろいろと心に響く文章を残してくれたのを思い出し、当時書かれていたものを引っ張り出して読みだした。その一部を紹介したい。
言葉には不思議な魔力があるようだ。それは発信側、受信側いずれにとっても、ある共有する場で共振、増幅を繰り返し、莫大なエネルギーを生む場合も多い。もちろんその場の雰囲気に影響されることも当然であるが、「心そこにあらざれば・・・」のたとえどおり、求める心がなければ、どのような至言、金言といえども「馬の耳に念仏」となるのは古来先人の教えるところである。
その一部の書き出しに
闇があるから 光がある
苦があるから 楽がある
闇を生かそう
苦を生かそう
これは車の渋滞に巻き込まれ、ふと窓外に目をやるとお寺の掲示板に上記の文があった。閉塞した時代「何から何まで真黒闇よ・・・」だからこそこの言葉は生きてくる。渋滞もありがたいものである。
地下鉄浅草線に乗る。仏具屋・S社の弥勒菩薩が等身大のお姿で浮かび上がる。その傍らに曰く、「こころは  かたちを求め  かたちは  こころをすすめる」 カント曰く、「内容無き形式は空虚であり、形式無き内容は雑駁である」と上下をつけて話す必要はない。実に素直な言いまわしである。すすめるは:進める:の意で、こころをより良くすることであろう。地下鉄の各駅には、この種の文言がもっとあってもよいと思うのだが。
またある時には、訪問した会社の社是、社則を見る時もあり、大体が共通のパターンであるが、成程と思われる格言を見出すと手帳に写しとるのを楽しみにしている。
「人生五訓」
あせるな おこるな いばるな くさるな おこたるな
工場を見学して別の部屋に通されたら次の言葉があった。
夢のある者は希望がある 希望のある者は目標がある 目標のある者は計画がある 計画のある者は行動がある 行動のある者は実績がある 実績のあるものは反省がある 反省のある者は進歩がある 進歩のある者は夢がある
ちょっと語呂合わせにこだわった面もあるが、ついつぶやくように読み下している自分を発見する。静岡の某工場での話である。
またある工場の社長は、あふれる情熱をもって部下に説教調の教訓を垂れ給う。
辛いことが多いのは 感謝を知らないからだ  苦しいことが多いのは 自分に甘えがあるからだ  悲しいことが多いのは 自分のことしか分からないからだ   心配することが多いのは 今を賢明に生きていないからだ
生きづまりが多いのは 自分が裸になれないからだ
自分に都合が悪くなると、他人のせいにして、不満をぶちまける。自分がすることによって、解決を見い出そうとは、しないのである。
第4節の:賢明:は:懸命にした方がよいと思われる。却下照準、挙挙服膺することが大切である。特に上に立つ人間はこの項を読み返し「他人の痛み」が判る人間になることが第一条件である。
関西にあるN社を訪れたことがある。発想のきっかけをつかむための六か条が記してあった。
1,テーマの裏の裏の裏を考えよ
2,発想は常にゼロから始めよ
3,完成したものは屑として見よ
4.他社、産業界の人と交流せよ
5.過去の成功体験を思い出せ
6.一日を二日と思え。午前で一日、午後で一日
アイデアの根元は、過去にとらわれず、根本的に考え、視野を広くしてプラス思考で努力せよという事になる。当たり前のことかも知れないが、一日を二倍に生きる表現には本田光太郎先生を思い出した。先生は研究所の所長時代必ず午前と午後各研究室を廻られ「どうだん? (どうだい)」とおっしゃられた由。
私はこの先輩の文言を見つめていると戦闘のための*遠い太鼓*の響きを感ずるとともに、懸命に業務に励んでいる現役の方々に限りないエールを送りたい。