五月五日の子供の日に
大型連休中の真ん中の子供の日に、いつものコースを散歩しているうちに気づいたのだが、空にはためくはずの鯉のぼりが全く目に入らない。これも少子高齢化の影響なのかと、少なからず未来に対する不安を感じた。
鯉のぼりの由来とは、江戸時代の武士たちが、平和な世の中を築き上げて、武功では上を目指すことは不可能な時代になった。そこで学問に励むことを、立身出世の手段とした。町人たちも技術や商売を学び、家業に精出すことで家産を増やした。したがって日本人の基礎学力は、江戸初期の頃から今日まで、ほぼ4世紀にわたって、世界でダントツだったと言われている。これは識字率の圧倒的高さとか、江戸初期に出た「塵劫記」という算数の本が、江戸時代を通じて大ベストセラーだったことからもうかがえる。また芸術の世界でも、西洋に写実主義しかなかった時代に、葛飾北斎や安藤広重などは、波の間から富士山が見えたり、夕立を直線で描いたりというデフオルメした構図を生み出した。印象派を代表するゴッホやモネは感動し、自分たちの作品に熱心に取り入れたりした。
激流を登りきった鯉は竜になると言われている。努力すれば必ず成功する。その鯉のように、子供たちが竜を目指すことを願うのが鯉のぼりである。五月五日の端午の節句に「鯉のぼり」を揚げるようになったのは、江戸時代からだと言われている。武家が家紋の入った旗指物や幟を門口に並べたてた。これにならって町人たちが鯉の幟を立てはじめた。いずれも子供たちの「立身出世」を祈っていた。薫風の空を泳ぐ「こいのぼり」は実に爽やかだ。
明治維新という改革の奇跡的成功や、日露戦争の勝利の陰には、立身出世を目指し、武士や町人が競い合った江戸時代の蓄積があった。今の日本に最も欠けるものは「こいのぼり」の精神ではなかろうか。