鉄は熱いうちに打て
五月の連休も過ぎて新入社員もようやく職場に慣れてきたころだと思う。
ある大企業の役員の友人から聞いた話だが、新入社員でまともな挨拶ができない若者が何人かいたという。今の若者は乱塾時代といわれるように学校教育に加えて、塾通いをして知識を詰め込んでいる。このように過剰な程の教育を受けた結果が、企業に入ってくると挨拶一つできないろくに文章も書けない、ということになってしまっているのである。このような若者を生んだ社会的背景、教育問題、親の躾に対する責任を、我々は反省しなければならないと思う。
そして、これは結局、企業が求めるニーズと、今の教育がマッチしていないということになり、きわめて深刻な問題である。要するに入社した若者が、なかなか即戦力にならないということなのである。比べてみてもあまり意味はないが、我々が育った時代というのは、どこの家も貧しかった。平等に貧乏だあった。しかしながら、皆将来に希望を持っていた。明日は必ず今日よりは良くなるのだという確かな手ごたえが感じられていた。
私も入社時のことでいまだに忘れられず、鮮明に思い出されることがある。当時は正式の文書は、ペンにインクを付けて書いていた。バブル時代の前はずっと不況が続いていて、インクが出庫停止となり、インクに水を混ぜて使っていた時もあった。 会社といえば本社のきれいなオフイス、赤いジュータン、スチールの机、こういったものを想像して入社した新入社員には、メモ用紙は一度使った裏紙、封筒は封筒で相手からもらったもの、見るも聞くも驚きであった。
マスコミはどれ程、企業の内情を知って書くか知らないが、企業のもうけ過ぎ、悪徳商法をよく宣伝する。しかし、当時、企業の内部では、インクを水で薄めて使うような血の滲む努力の結晶として、幾ばくかの利益を得ているに過ぎなかったのである。利益を得ることはどんなに大変なことか、新入社員にはしっかり植え付ける必要がある。
今の若者はといくら彼等を非難しても、学校教育に対する不満を表明してもどうにもならない。新入社員たちに組織における生き方、団体生活のあり方を教える必要がある。鉄は熱いうちに打てということである。
組織には長(リーダー)がおり、そのリーダーの指示命令には従わなければならないこと、又精神的にもこのリーダーを敬うべきこと。したがって、挨拶は目下のものが目上の人に先ず交わすこと。組織においては約束、時間、期限は何が何でも守らなければならないこと。これらの事を新入社員に徹底的に叩き込むことが、まずは必要なことだと思っている。