痛切な思い出

今年は終戦から65年がたち、また暑い夏がやってきた。
小学校のころ、教師の引率でよく映画を見に行った。授業の中に組み入れられていたのであろうと思う。ずいぶん昔のことなので、ほとんど何を観たのか覚えていないけれど、強烈に覚えている映画がひとつだけある。「硫黄島の砂」というジョン・ウエイン主演の海兵隊の物語で、日本の硫黄島玉砕をアメリカ側から描いていた映画であった。アメリカ海兵隊が硫黄島に上陸を開始し、日本兵との間で凄まじい銃撃戦が繰り返される。日本兵が艦砲射撃でバタバタと倒れていく場面や、日本兵の骸骨や死体をこれでもかと言うほど見せられた。日本人にとって実に嫌な映画であり、何故こんな映画を我々に見せるのか不思議に思ったのを子供心にも覚えている。そして最後にアメリカ海兵隊が摺鉢山に星条旗を立てて勝利を宣言する。その瞬間なんと一緒に観ていた同級生のほとんどが拍手喝采をしたのである。一瞬、我が耳を疑い、やがて愕然としたのを鮮明に覚えている。
私と同じように沈黙した少数派もいたに違いないが、暗闇の中なのでそれがどのくらい、いたのか分からなかったが、物凄く悲しかったのを覚えている。なぜこんな場面で拍手喝采が出来るのか、私はそのとき、拍手した連中とは距離を置かなければならないと痛感した。小学校低学年のころだから、戦争が終わってからまだ間がなかった筈なのに、すでに戦争の実感を喪失している。正直なところ国を守るために、戦って次々と倒れていく日本兵を観ていささか粛然とした気持ちで、画面を正視できずうなだれざるを得なかった。
ところがわが同級生のほとんどが拍手喝采は衝撃であった。日本軍は悪の軍隊で、正義のアメリカ軍に凝らしめを受けて滅びること、めでたしめでたしと言うことなのかと実に情けなかったのである。

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