ダム建設の深い意味

 土地改良の仕事に携わるようになってから、水の重要性が骨の髄まで染み通ってわかった。 降雨量が少なくて「渇水」が起きた場合、農業関係者や水を利用せざるを得ない工業に従事する人達にとって、水は死活問題である。 また、日ごろ何の関心も示さずにいる住民にとっても、水の供給が止められたらどうなるか、東日本大震災で骨身に沁みて判ったはずである。
今、台湾人が最も尊敬している人物は、日本人技術者
八田與一である。 八田與一が台湾に勤務したとき、台湾南部の華南平野は、台湾の全面積の約三分の一を占めていたにも拘らず、雨期の氾濫と乾期の水不足で農地は悲惨な状態にあった。 これを見た八田與一は、台南市の北を流れる官田渓という川の上流の鳥山頭で、川をせき止めて「ダム」をつくり、農地に水を供給する給排水路を張り巡らせることに成功し、豊かな農地を作り上げた。 台湾の人たちは、八田與一の銅像を作り、毎年、慰霊追悼式を行っている。
しかしながら、わが国では「ダム不要論」を掲げている民主党が政権をとっている。民主党は、党のマニフエストに廃止となっているとして、当時の国交大臣が八ツ場ダム中止を決めた。 決めた後、世論なのか、地元の巻き返しなのかは不明だが、継続することになった。 
八ツ場ダム建設理由のひとつに、首都圏の「地盤沈下」対策があるのが殆ど知られていない。 首都圏では、大量の「地下水」が利用されているために、地盤沈下が激しい。 その結果、広い範囲で、年間1センチ以上もの地盤沈下が、観測されているという事実がある。 しかも、雨の少ない年には、一気に6センチも沈下する地域すらあるのである。 地盤沈下で最も深刻なのは、「堤防」の沈下が顕著で、数年に亘る沈下で、1メートル以上も堤防が低くなってしまっているところがあるらしい。
八ツ場ダムが完成すれば、貯水する大量の水で地下水の利用が抑えられ、地盤沈下が食い止められる。
民主党はこのような建設理由を知って「八ツ場ダム」をマニフエストに中止と決めたのか。 いずれにしろ酷い話である。
「脱ダム宣言」といったスローガンと共に、無駄の象徴として「コンクリートから人へ」といった幼稚な発想で云われ続けてきたダムには、飲み水等の「利水」、さらに洪水や地盤沈下を防ぐ「治水」という深い意味があるということを、我々は知るべきなのである。

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